空の世界と虫歯

飛行訓練を推し進めていく中で三週間が経とうとしていた時です。

急に歯が痛み始めました...

最初は歯痛と飛行機との関係が結び付けられませんでしたが、知覧特攻平和会館で読んだエピソードを思い出しました。

米軍に占領された沖縄に特攻するために飛び立った戦闘機の飛行兵が、歯の痛みに耐えられず基地に帰還してきて、軍医に歯を抜いてもらい、「ありがとうございました、これで米軍との戦闘に専念できます」といって二度と帰らぬ人になったというエピソードです。

知っている人もいるかと思いますが航空自衛隊の入隊でも虫歯は許されません

僕は、単純にたかが飛行機に乗るだけなのに虫歯に対して大げさだなーと思っていました。

セスナで訓練した高度はせいぜい4000ft(1200m)くらい
1200mなら飛行機に乗らなくても普通に山にドライブに行っただけで経験できる高度でもあります
富士山(3776m)に比べてもたいした高度ではないように感じますがそれでも影響するのです
登山と違って急激な気圧変化が原因でしょう

特攻隊員の搭乗機一式戦闘機隼の戦闘高度は5000mから6000mくらい、この高度だと0.5気圧くらいで地上の半分くらいの気圧になるため激痛に襲われたのでしょう。

僕の場合、訓練中よりも帰ってきてからの方がつらかったのです、飛行高度がたいしたこともなく訓練中は神経が訓練に集中していたため痛みよりも緊張の方が上回っていたのでしょう

困ったことに歯痛は、なぜか地上に降りてきても続きます。

その日ステイ先のショーンさんの家に帰って寝る時には、何とか我慢できるだろうと思ったのでそのまま水で冷やしてから寝ましたが、収まるどころかどんどんつらくなっていきます。

夜中の三時頃、痛みに耐えかねて、それでも寝ている人たちを起こさないように気を遣って洗面所に行って気休めのために歯を磨きました。

もちろん、うがいなんかぜんぜん効きませんし痛みは益々酷くなりました。

しかしツイてる!静かにしていた積もりでしたが、ショーンさんが起きていたみたいで物音に気付き「どうかしたか?」(もちろん英語)って部屋から聞いてきてくれたのです

僕は、天の助けに感謝しながら、歯が痛くて寝られないので痛み止めをくださいと頼んでみました!

おかげでその日は何とか眠ることが出来ました。

翌日、歯痛と飛行機との関係について、教官に聞いたところ

こうゆうことはよく在って、パイロット訓練前には虫歯治療はしたほうが良いということ
また、カナダでは国民は医療費は無料だけど歯科医院だけは別で、たいていは民間保険に入ってカバーしてるとのこと

「カナダで普通に歯医者にかかったら、一財産無くすよ!とりあえず痛み止め飲んで我慢して帰国後に治療した方が良い
私の奥さんも歯科治療はわざわざ日本に帰ってやってる」
と教えてくれました

帰国後は、ほとんど痛みは治まっていましたが、歯医者に行って検査してもらい、レントゲンで内部を診てもらったところ痛みの原因を発見治療してもらうことにしました。

飛行機の操縦は見えない虫歯を初期に発見する良い方法ではないでしょうか


ちなみに現代のジェット戦闘機パイロットは、無加圧機内で高度34000ftまで急上昇したりするため、虫歯の洞の内部と外部の気圧差で”歯が破裂”する場合があり
歯が破裂するとパイロットがショックで気を失いそのまま墜落するため、戦闘機パイロットは虫歯がまったく無いか、虫歯を抜くかが条件となるそうです





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